粋を楽しむ。

新着情報

東京二八そば探訪【其の三十一】
サラリーマン御用達の銀座のオアシス 蕎麦屋の王道、カレー天せいろで満腹!

【中央区 銀座】満留賀
k.j

 地下鉄「東銀座駅」「汐留駅」から徒歩10分ほど。銀座八丁目の活気あるお店「満留賀」さんを訪ねました。午後2時過ぎでしたが、サラリーマン風のお客さんが次々と暖簾をくぐっていきます。入ってすぐ左にある帳場で注文し、先に代金を払うシステム。メニューは賑やかにわかりやすく貼ってありますが、見れば見るほど迷う。「何がいいかな。何がおすすめですか?」。お店からしたら、メニューに載っているものは全部おすすめに決まってる、ので、普段はそんなこと聞かないんですが、お客さんや立ち働くスタッフの活気に気圧されてと、ついオロオロして聞いてしまいました。すると、店主の竹本博行さんがひょいと顔をのぞかせて、「カレー天せいろは?」と言ってくださったので、決まり! 考えてみたら、お蕎麦屋さんのカレーは久しぶり。楽しみです。

 お店は、こじんまりした一階と、二階にはお座敷も。一階の壁一面に並べられた、蕎麦焼酎のボトルが圧巻です。その棚の反対側には、昔からのものと思われる、立派な木のお品書き。お蕎麦屋さんならではのこの書体が大好きなので嬉しく眺め、「この字、本当にいいですよね」と言うと、「そうだね。でももうこれを書ける人はいなくなっちゃったね」と竹本さん。こうした板のお品書きの字は、専門の方が書いていますが、この技術がある人が今ではほとんどいないと、あちこちのお店で聞いていました。残念です。でも実は、竹本さんの字も素敵です。夜のメニューブックの間に挟まれた、季節のメニューは竹本さんが書いたもの。すっきりとした雰囲気の良い字です。

 こちらのお店の初代は、竹本さんのおじいさん、竹本力平さん。はっきりした年代はわからないけれど、大正時代の創業だそうです。浅草や銀座、月島と何軒かお店を移り、今の場所に落ち着きました。二代目が、竹本さんのお父さん。三代目の竹本さんはいわゆる「おじいちゃんっ子」で、小さな頃から初代の力平さんから、「おまえはいずれここで商売をやるんだよ」と言い聞かされていたそうで、それを嫌とも思わず、「ああそうなんだ、と思って育ちました」。というわけで、大学を卒業して迷わず店に入ります。

 けれど、木造だった店を今の形にし、時代に合わせて食材やメニューも大きく変えていきました。「仕入れ業者さんや同業の仲間からいろんな情報をもらって、勉強して、蕎麦粉を変えたり、鰹節を変えたりしてきました」。より良いお店にするために、大きく変えたことのひとつに、居酒屋のようにお酒やつまみに力を入れる、ということがありました。「お酒が好きな人は、やっぱり生物が欲しいだろうと思って、お刺身を出すようにしました。最初は市場で買ってきたものを並べて出すだけだったけど、築地に通って魚の捌き方を習ってから、自分で魚をおろして出すようになりました。それはひとつの分岐点だったかもしれませんね」。

 蕎麦ではないですが、「これからは辛いものが流行る」と聞いた30年ほど前に、「ピリ鍋うどん」を考案しました。白菜キムチやお餅や肉が入った、ちょっと辛いうどん。「ピリピリ鍋だと辛すぎるから、ピリ鍋、です。ピリピリの半分の辛さを表現しました」と、時代を先取るセンスもユーモアもあるんです。

 「カレー天せいろ」がきました。「わー、おいしそう」と思わず声が。淡い緑色のせいろ蕎麦、たっぷりのカレー汁、イカとネギがたくさん入ったサクサクの大きなかき揚げ、白ごはん。カレー汁の中にお蕎麦を浸していただくと、これこれ、このお蕎麦との絡みの良さこそお蕎麦屋さんのカレー! と嬉しくなりました。「かき揚げは、どのタイミングで食べたらいいですか」と聞くと、「お好きなように。カレーに浸して食べる人、多いですよ」との答えに、「やった!」と思いました。実は、それがやりたかったのですが、もしかして邪道? と迷っていたのです。安心して、かき揚げをカレー汁へ沈めます。そこにお蕎麦を絡ませて食べるも良し、カレー汁に浸ったかき揚げをごはんの上に引き上げて食べるも良し。「カレーに入れず、かき揚げをそのままごはんに乗せて、醤油をかけて食べる人もいますね」。それも良さそう! お客さんの好みでアレンジして食べ方を楽しめるのがとてもいいです。

 お蕎麦にカレーにかき揚げにごはんに、ってこんなに食べられるかな? と思ったのも一瞬。おいしくて、あっという間にぺろりと平らげてしまいました。

満留賀
中央区銀座8丁目20-1 03-3541-0858
定休日・土日祝