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東京二八そば探訪【其の三十】
頼もしい町のお蕎麦屋さん、 蕎麦だけじゃない魅力もいっぱい

【墨田区 京島】長寿庵
k.j

 江戸時代には「小村井村」だったという地名からの、東武鉄道亀戸線「小村井駅」。車内ぽかぽかあったかな電車に乗ってやってきたここは、とても住みやすそうな下町です。駅から徒歩10分ほど。長い滑り台があるノスタルジックな「京島南公園」のすぐ前の「長寿庵」さんをお訪ねしました。公園で遊ぶ子供たちの声を聞きながら、お店のドアを開けました。

 左に小上がり、右にテーブル。狭すぎず広すぎずの店内。小上がりでは、常連さんと思われる男性が、生ビールのジョッキを前に、おつまみを楽しんでいるところ。よく見えないけれど、並んでいるおつまみは、肉じゃが? ウィンナーソーセージ? お蕎麦屋さんぽくないような。理由は後で判明します。

 メニューを拝見。おなかがすいているので、丼ものとのセットにしようと思いましたが、これが種類たくさん。「天丼」「カツ丼」「親子丼」の定番ベスト3の他に、「さば味噌煮」「ミニ焼肉」「ネギトロ丼」「ミニ玉子丼」「コロッケセット」など。ごはんものが充実している様子で、お蕎麦と同じくらいごはん好きな私はすでに嬉しい気持ちです。「ネギトロ丼セット」をもりそばでお願いしました。

 小上がりの常連さんの他に、テーブルにも常連らしい女性おひとりさまご来店。さっと注文した後は、笑顔で女将さんと世間話に花を咲かせています。何気ない会話の中に温もりが伝わってきて、ここが日々の安らぎの場になっていることを感じます。

 店主の小堺正徳さんは、17歳で新潟から上京し、赤坂の長寿庵本店で修行。10年修行した後、27歳の時、日本橋人形町で独立。近隣の会社で働く人たちや、すぐ近くの明治座のお客さま、出演する俳優さんなどにも愛されたお店でしたが、10年ほどして、現在のお店に移転しました。人形町でもここでも、修行して身につけたお蕎麦とつゆの基本を守りながら、お客さんが喜んでくれるサービスを心がけています。

 小堺さんのサービス精神の表れのひとつが、豊富なおつまみメニュー。とにかく、種類豊富です。「冷やしトマト」や「もろきゅう」といったオーソドックスなおつまみもありますが、「ホルモン焼き」「やきいか」「鯖の味噌煮」「ポテトフライ」「おでん」「もつ煮込み」など、居酒屋さんのようなガッツリしたおつまみまで。しかもこちらのお店は中休みなし。これはもう、昼からビールで始めて、そのままお酒に突入し、ゆっくりしたくなります。「よそとは違ったことをやらないと、っていう気持ちで、メニューが増えていきました。特にお酒が好きな人が喜んでくれるようなものを」と小堺さん。ご自身もお酒が好きだそうで、確かに酒好きの気持ちをつかむメニューが揃っているなと感じました。

 「ネギトロ丼セット」がきました。淡く色づいた二八蕎麦の、もっちりした食感に、旨味があるのにさっぱりしたつゆを夢中で堪能。蕎麦湯を注いでも旨味が薄まらないつゆがすごくおいしいですね! とお伝えすると、「つゆはちょっと自信あるかな」と、ぽつり。修行時代、つゆの作り方を習うのは蕎麦を習った後だったとか。「つゆは、性格が出ちゃうんですよ。面倒くさがりだとダメなんだ」との言葉が心に響きました。

 セットものの場合は、お蕎麦を先に食べることにしているので、お蕎麦の後に、ゆっくりネギトロ丼を食べました。白菜漬け、ワカメたっぷりのお味噌汁、小鉢まで付いてくることに感激です。小鉢の切り干し大根の煮物もおいしくて、よくある煮物より甘味が抑え目で、これはまたお酒に合いそう。「お酒の突き出しも兼ねて毎日2、3種類作ります」という小鉢。白菜漬けもちょうど良い塩加減。「うちは糠漬け(ぬかづけ)もおいしいよ」。お味噌汁もほっとする味でした。

 ごはんをしっかりサービスしてくれるのは、こちらのお店の特長のひとつ。「田舎の人間だからかな、とにかくお腹いっぱい食べてもらいたいんです」と小堺さん。新潟出身だけあって、お米がおいしい。もちろん新潟のお米です。テーブルの上には、お好きにどうぞの「ふりかけ」と「うずらの卵」(夏場はなし)も置かれていて、ごはん好きがますます喜ぶ仕組みです。うずらの卵は、ごはんだけじゃなく、お蕎麦にかける人や、つゆに入れる人も。嬉しいサービスです。「喜んで帰ってくれたら、それでいいんです」と微笑む小堺さんに、「またぜひ来ます!」と約束して、満たされた気持ちでお店を出ました。

長寿庵
墨田区京島2-23-6 03-3618-5871
定休日・水曜日