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東京二八そば探訪【其の二十四】
新しいモダンな建物の中で守られる 懐かしい味、変わらない味。

【小金井市 梶野町】醍醐
k.j

 JR中央線「東小金井駅」北口は再開発中で、整備中の駅前通りの広い歩道を1分も歩かずに見えるのが「醍醐」さん。店頭で風に翻る「東京二八蕎麦」の旗と、まだ新しいコンクリートのモダンな建物に心が躍ります。

 店内はひとめで見渡せるコンパクトな広さの中に4人掛けテーブル3つと、南向きの窓際にカウンターが4席。コンクリート壁の硬質さと、テーブルの木の温かみがマッチし、大きな窓から光がたっぷり注ぐ、明るくて清潔なお店です。カウンター席に座りました。主におひとりさまが座ることの多いカウンター席は、テーブルが狭めでちんまりしたスペースになっているお店も多い中、こちらはかなり広々としたカウンターテーブル。これだけで、ずいぶんのびのびした気持ちになるものだなと思いました。

 メニューを見てみます。曜日替わりのランチは、今日は火曜日なので「タレヒレカツ丼」とお蕎麦のセット。魅力的。ヒレカツは久しぶりだなと心が揺れましたが、お蕎麦をしっかり食べたいと思い直し、結局「穴子天もり」にしました。メニューやお茶やおしぼりを置いてもまだこんなに広々ゆとりのあるカウンターテーブルです。

 一代目店主は永井和男さん。創業、1969年(昭和44年)。半世紀以上がたちます。永井さんの兄弟3人、それぞれに「醍醐」というお店を近隣で営み、今は小金井店のここと、弟さんが営む小平店が営業中です。どうしてお蕎麦屋さんになろうと思ったのですか、とお聞きすると、柔和な笑顔をほころばせて、「うーん、ふふふ、、」と、考えてから、「なんとなくなっちゃった」と。永井さん、決しておしゃべりではないのです。ですが、「できることはこれだけ、と思っているから、他のことをやろうと思ったことはないです」とも。言葉は多くなくとも確固とした意志を感じました。

 開店当初は、昭和に開店したお蕎麦屋さんの多くがそうであったように、出前に向いた機械打ちの蕎麦を出していて、蕎麦やうどんだけでなく、丼ものはもちろん、ラーメンまでメニューにある、食堂を兼ねたタイプのお店でした。しかし25年ほど前に、蕎麦をすべて手打ちに変えます。「蕎麦屋になったからには、蕎麦屋らしくしようと思って。挽きたて、打ちたて、茹でたてが一番ですから」

 お客さんは、近所の人や、遠くから来てくれる人までいろいろ。この日は、ランチタイムをだいぶ過ぎていましたが、おひとりさまが続けて来て、慣れた様子で注文し、さくさく食べる様子が見られました。

 「穴子天もり」。まず目を引かれたのは、お蕎麦の色。淡い緑色を含んだ、蕎麦独特の色味が際立って美しい。「今日は新蕎麦。北海道です」。ちょっと辛めの濃い江戸風のつゆに、蕎麦をちょっとつけてすすると、蕎麦のまろやかさ、風味、食感、しっかり感じられます。つゆも好みだし、天ぷらの衣がふわふわではなくカリッとしたタイプなのも好みでした。

 コンクリートと木のモダンなデザインに店舗を改装したのは、3年ほど前。アイデアをまとめたのは、二代目の息子さん。その二代目は、厨房の奥で黙々と働いていました。

 店舗は新しくモダンだけれど、お蕎麦がのったせいろ、天ぷらの盛り皿、お盆、蕎麦湯入れなどは、開店当初から大切に使ってきた年季の入ったもの。古くてもしっかりした造りなので、塗りが少しはげたり、擦り切れたりしていても味わい深く、お店が歩んできた長い月日を思ってじっくり見ました。特に蕎麦湯入れは、形はよくある形ですが、分厚い木製で、マットな仕上げとか、持ち手の温かみとか、とても素敵。永井さんも、「最近の新しいのとは、ちょっと違うね」と、大切にされている様子。壁には、開店時の看板も大事に掲げられています。

 店内から見えるところに打ち場があるのも、お客さんにとっては楽しいはず。きちんと整えられた蕎麦打ちの道具を見るだけで背筋が伸びるようです。そこからひょいと壁を見ると、立派な魚拓が飾ってありました。「城ヶ島沖、平目」。永井さんが釣った、70センチ超えの平目です。釣りは趣味で、今も行くそう。「釣った魚をお店で出す、なんてこともあるんですか?」とお聞きすると、「常連さんがたまたまいたりしたら、出すことも、ある、かなあ」と。密かに楽しみにしたいと思います。

醍醐
小金井市梶野町5-9-4 042-383-1248
定休日・木曜日