粋を楽しむ。

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東京二八そば探訪【其の二十】
リニューアルして、おしゃれに、親しみやすく。 街の人気店でにしん蕎麦をいただく。

【板橋区 板橋】むさし乃
k.j

 江戸四宿の一つと言われた中山道の宿場町「板橋宿」。これは3つの宿場の総称だそうで、その一つ「仲宿」は、今もここに商店街の名として残っています。都営地下鉄三田線「板橋区役所前駅」を出てすぐの仲宿商店街に交差する道を、少し進んだ右側に「むさし乃」さんがあります。駅から徒歩2分ほど。便利です。歩いて来るとすぐ目に入ってくるのが、白木の格子を入れたきれいなガラス戸と萌黄(もえぎ)色の暖簾の入口。リニューアルしてまだ半年というフレッシュさが入口から感じられます。入ってすぐ右手には、大きな蜂の巣。日本だけでなく海外でも「縁起物」とされる蜂の巣。ありがたい気持ちで眺めました。

 店主の森秀人さんは3代目。初代のおじいさんが働いていたお店を引き継ぎ、戦争で亡くなられてからは、おばあさんが先頭に立って店を継続、お父さんが後を継ぎ、今は3代目の秀人さんが、女将さんや娘さん、気心の知れたパートの方々と一緒に営んでいます。ごく簡単にお店の成り立ちと経緯をお聞きした後、入り口近くにかかっている、おじいさんが写る「昭和15年」の集合写真を見せていただいて、お蕎麦屋さん一家の100年の営みの苦労や喜びを想像しました。

 店内は、白木の格子が入った窓が印象的で、すっきりしたデザインのテーブルなど、明るい雰囲気。窓の格子のデザインはいろいろで、蕎麦の花をモチーフにしたものもあり凝っているし、アクセントの赤い暖簾もおしゃれです。でも決して気取ったふうではなく、親しみやすい。リニューアル前、「高級感はありつつ、敷居は高くしたくない」という意向を、デザイナーさんにまず伝えたそう。「手頃な価格でおいしく食べられる蕎麦屋として、良い気分で外食を楽しめるお店にしたかった」と、森さん。

 あともうひとつ、森さんの個人的なこだわりとして、お相撲さんの手形と番付表が飾られています。北の湖に勝った朝潮に魅了された小学生時代からの相撲ファン。店内に飾られた手形とサインは、右から、「武蔵丸」「若乃花」「曙」「貴ノ花」「貴ノ浪」という、一世を風靡した一横綱四大関のもの。テーブルのすぐ横にあるので、お客さんが自分の手とお相撲さんの手形を重ねてみたりして、話題のきっかけにもなっているとのこと。

 メニューは、定番のお蕎麦はもちろん、ヒレカツやカキフライとごはんとのセットなどもいろいろ。うどんやきしめんも。お店の近くに「板橋こども動物園」があることから、土日は家族連れも多く、豊富なメニューは子どもたちにも人気だそうです。

 さて、何にしようかなと、いつものようにメニューを熟読した結果、久しぶりにその名を見つけて食べたくなった「冷やしにしん蕎麦」に決めました。「リニューアルにあたってメニューも少し減らしたのですが、にしん蕎麦は根強いファンがいるから、無くさないほうがいいよとアドバイスされて」と、森さん。はい、根強いファンがここにいます。ありがたいです。森さんご自身も、じっくり炊いたニシンは大好きだそうで、「ごはんとも合いますよね」と、こっそり。そうです、それにも同意します。しかしもちろんここはあくまで、「にしん蕎麦」。お蕎麦は、茨城県産の常陸秋そばを使っていて、香りが良いです。にしんはほろほろに柔らかく炊けていて、辛すぎず甘すぎず、いい塩梅で、にしんの奥深い香ばしさもしっかりあって、おいしい。お箸で少しずつ崩しながらお蕎麦と共にいただくと最高です。

 森さんは。学校を卒業してホテルマンとして働いていた時期もあるそうですが、16歳の頃からずっとお店を手伝ってきて、いずれ継ぐのは当たり前とも思っていたそうです。後継者に苦労するお店も多い中、そんな自然なスタンスでお店を継いで、自分の代になってから、こんなに立派にリニューアルも果たしました。「2020年5月からリニューアルのために閉めて、2021年3月に再オープンしました。コロナ禍もあり、工期も遅れて、不安もありましたけど、おかげさまで新しいお客様も増えています。特に女性や若い方が増えたのは、ありがたいですね」

 最後に、内緒の「秘密」をひとつ。4人がけのテーブル席の天井は、お蕎麦の花のデザインになっているのですが、照明を通して、テーブルに置いた蕎麦つゆにそのお花が映るんです。もともと意図したものではなく、あるときお客様が発見したのだとか。4人がけテーブルの奥の席だけで見られる「お楽しみ」をぜひ。

むさし乃
板橋区板橋3-19-7 03-3961-2775
定休日・水曜日