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東京二八そば探訪【其の十七】
下町に根付いた間違いないおいしさオリジナルのたぬき蕎麦で笑顔に

【江東区 扇橋】柳家
k.j

 夏をはっきり感じる蒸し暑い昼下がり、汗をふきふき「柳家」さんの店内に足を踏み入れると、ああ、涼しい。「町のお蕎麦屋さん」は、たいていこういう造りだったなと思える四角くこじんまりした店は、冷房のおかげはもちろんですが、大きな窓と白い壁、すみずみまで清潔で、とても涼しげ。ふっくらした座布団が並んだ小上がりもかわいい。

 地下鉄の「住吉」駅からは徒歩10分ほど。スカイツリーを見て、隅田川と旧中川を結ぶ運河「小名木川」にかかる橋(小松橋)を渡るなど、景色を見て歩くのが楽しく、10分もかからず着いた気がします。

 ランチタイムは過ぎていたので、お客さんは中高年のペアが2組。4人とも、ランチの定番、丼ものとお蕎麦のセットを黙々と食べていました。メニューを見ると、写真つきで蕎麦メニューがずらり。「力うどん」「鍋焼きうどん」など、うどんもあり。他より少し大きい写真で載っているメニューがおすすめなのだろうとわかったけれど、そのひとつは「天もり」で、これは納得として、もうひとつが「冷たぬきそば」で、「えっ!」となりました。たぬきそばがこんなにピックアップされるお蕎麦屋さんが他にあるでしょうか。これは頼むしかないです。

 店主の鈴木利孝さんのお祖父さんは、この土地で手ぬぐいの捺染(なっせん)を生業としていたそうですが、戦後は商売がなかなか難しくなり、10人兄弟の長男だったお父さんは家業を継がず、まったく違う仕事であるお蕎麦屋さんを始めます。とにかく生きていかなければならない時代、「蕎麦屋なら食うに困らない」という周囲の勧めもあったといいます。

 そして二代目になる利孝さんは、若い頃は蕎麦屋を継ぐ気はなかったとのことですが、高校卒業後、迷った末、店に。その頃すでに、お父さんの妹たちやその家族も蕎麦屋をやるようになっており、家族経営のお店が5軒まで増えていました。「ここまでやってこられて、万々歳だよね」と、利孝さんのちゃきちゃきした江戸っ子口調が耳に気持ちいい。常々お父さんが言っていた「おいしいもの作ればお客さんはついてきてくれる」という信念を大切にしています。

 若い頃は、働いた後はうんと遊んでもいたよと笑いますが、蕎麦の勉強もしっかり。「業界の青年会みたいのがあって、年上の先輩たちと一緒に勉強会をして。教えてもらったおいしい店に食べに行って、うちでもこういう蕎麦が出したいと勉強しました。父から受け継いだものはもちろんあるけど、他所の店の蕎麦をいろいろ勉強して、いいとこどりをしてできたのが今の店かな」

 メインのお蕎麦には北海道江丹別産の蕎麦粉を使うこと、蕎麦は打ったあとの温度管理にも気を配り、メニューごとにつゆの味は変えて、揚げ物の油は常に新しくカラッと揚がるよう気をつけるなどの基本をきちんと守ってきました。庶民に愛される町のお蕎麦屋さんだからこそ、「どこにも負けない味」で、お客さんの信頼を得てきたのです。

 楽しみにしていた「冷たぬきそば」をいただきます。ぶっかけスタイルでお皿に盛られてきますが、つゆを入れる別の器もあって、「つゆをお蕎麦にかけても、器にとってお蕎麦をつけて食べても、どちらでもお好きなように」と。その日の気分でぶっかけにしたいときと、つゆにとって食べたいときがあるから、これは嬉しい。そして、びっくり。たぬきそばと言えば、「揚げ玉」と思っていたのに、なんとイカのかき揚げ。ゲソもたくさん入った歯ごたえがあって旨味も濃いイカのかき揚げが堂々と真ん中にのっています。驚きつつ「イカのかき揚げが、なぜ『たぬき』なんですか」とお聞きしましたが、「うちは昔からこれ」「なんでかな、わからない」「たぬき丼はこれを丼にするんだけど、これも人気」とのこと。柳家さんの常連のお客さんが「たぬきそば」と言えば「イカのかき揚げ」だと思ってしまったら、他所のお蕎麦屋さんに行ったときにがっかりするのではないかしら、と余計な心配をしてしまいました。

 イカのかき揚げがのった「冷たぬきそば」を、たいへんおいしくいただきました。揚げ油には特に気をつけているとお聞きした通り、カラッと軽やかに揚がっています。そばは細めで、かまぼこやキュウリ、錦糸卵、ワカメなどの他のトッピングと一緒に食べやすい。かき揚げも4つに切ってあるのがありがたいです。大満足。

 「かき揚げを浸したつゆに、最後に蕎麦湯を入れて飲むと、これがまたおいしいんだ」と利孝さん。それ、いま私が言おうと思ったことです!

柳家
江東区扇橋1-8-3 03-3645-4141
定休日・木曜日