粋を楽しむ。

新着情報

東京二八そば探訪【其の十五】
風通しの良い広々した店内で 休日をゆったり過ごす蕎麦時間

【三鷹市 大沢】御狩野
k.j

 西武多摩川線「多磨駅」を降り、人見街道を三鷹方面に10分ほど歩いた左側に、今回のお店「御狩野」(みかりの)の大きな看板が見えてきます。途中には近藤勇の生家跡があり、お店の少し先には、店名の由来になった「御狩野橋」が、ゆるやかに流れる野川にかかっています。都立野川公園や武蔵野の森公園、味の素スタジアムにも近く、歴史探訪や公園散歩、スポーツ観戦などで人が訪れる散策エリアです。そんなリラックスして過ごす休日の食事にぴったりの、広々とした居心地の良いお店がこちらです。
 「1階が70席、2階が48席、離れが24席、雨が降らなければ、テラス席にテーブルが4つ」と、席数を教えてくださったのは、三代目の指田英行さん。お訪ねした日はあいにくの雨でしたが、お天気が良ければ、外のテラス席でお蕎麦を食べるのは気持ちいいだろうなと思いました。

 お店は天井が高く、梁や柱の太い、とても立派な建物。築半世紀たつそうです。「初代の祖父が考えて建てたものです。福島県から宮大工を呼んで建てたと聞いています」。その後、少しずつ改装はしたそうですが、どっしりとした安定感は、今もって初代の心意気を伝えているように感じました。「改装するたびに、作業する業者の方から土台がしっかりしている建物だと言われます。改装したのは、バリアフリーのトイレにして、車椅子の方にもご利用いただけるようにしたいというのがきっかけです。15年くらい前ですね。それから少しずつ手を加えて、座敷の向こう側が壁だったのを、光が入るようにガラスにしたり、席を掘りごたつに替えたりしました」。バリアフリーの広いトイレ、光が注ぐ明るい小上がり、足が楽な掘りごたつの席。歴史を感じるしっかりした土台に、時代に合った改装を加えて進化してきたお店です。

 店名がついた「御狩野そば」を注文。二八蕎麦に、海老天、白身魚の天ぷら、野菜の天ぷら、山菜、大根おろし、貝割れ菜が盛られ、ネギとわさびを添え、つゆをまわしかけて食べる「ぶっかけ蕎麦」です。見た目も食欲をそそり、冷たくてするすると食べられて、蒸し暑い日にぴったりのチョイスだったと満足。二八蕎麦はとても喉越しが良く、上品なつゆが全体をまとめ、ひとくちごとに「おいしい~」としみじみ。熱々の蕎麦湯まで、無我夢中でいただきました。

 メニューには、定番から季節のお蕎麦はもちろん、お刺身や天ぷらや煮物がセットになった豪華なお弁当スタイルまでいろいろ揃っています。店の入口には生簀(いけす)。新鮮なお刺身が楽しめるお蕎麦屋さんはそう多くないので、次回はぜひお蕎麦の前にお刺身をいただこうと決意。斜め向かいのテーブルに座った、おしゃれなカジュアルファッションの熟年カップルは、メニューを前にして、何にしようか、前に食べたのもおいしかったけど、今日は違うのにしようか、どうしよう決められないね、と楽しそうに悩んでいました。
 三代目の指田さんは、おじいさん、お父さんの姿を見て育ちながらも、もともとはお店を継ぐ気はなかったそうです。学校を出て企業に就職し、サラリーマンとして働いていました。しかしその会社で4年働いた後、退職して蕎麦屋の道に。その理由を、「なんでしょうね。祖父や父がやってきたことの大きさに気づいた、ということでしょうか」と、穏やかに話される姿に、胸が熱くなりました。出前の多いお蕎麦屋さんとして創業したおじいさん、そのお店を継ぎ、お蕎麦はもとより料理に力を注いで、「田舎でもこんな料理が食べられるんだ」と言われるお店にしたお父さん。ふたりの目指した先に自分の身を重ね、更に先へと歩むことを決意した英行さんが、今一番心にとめていることは、「まわりに支えられて成り立っているということ」と言います。「自分は蕎麦を打つだけ。蕎麦や鰹節や醤油などをつくる人たち、そしてそれらを運んでくれる人たちがいることを忘れずに。長くつきあいのあるそうした人たちと共にこれからもやっていきたいということですね」
 場所柄、ふらっと来るというより、「わざわざ訪れる」というお店。「遠くから車で来るお客さんも多いです。そうやってわざわざ来てくださるお客さんに楽しんでもらうにはどうしたらいいか、それをこれからも追求していきたいです」。飲食店全体が苦境に立たされていると言えるこの時代に、お蕎麦屋さんのこれからを真剣に考えた答えは、「広く浅くではなく、深く濃く。大切にていねいに、お客さんとつきあっていくことだと思っています」

御狩野
三鷹市大沢6-3-25 0422-31-9367
定休日・月曜日