粋を楽しむ。

新着情報

東京二八そば探訪【其の十】
広々とした和風モダンの落ち着くお店 コース料理も楽しめる蕎麦割烹

[代々木上原]そば季寄 武蔵屋
K.J

 小田急線、東京メトロ千代田線「代々木上原」駅東口を出て、商店街の坂を2分ほど上った駅近にある「武蔵屋」。ガラスの自動ドアを入り、明るい通路を奥へ。期待を膨らませるエントランスからの導入部です。

 店内は思っていたより広々。席数は46席ほど。たっぷり外光が入るお座敷席や、可動式のパーテションで個室にもできるテーブル席のほか、大きな分厚い木のカウンター席もあって、おひとりさまから家族連れまで、それぞれにくつろげそうです。打ちっぱなしコンクリートの硬質さと、木や紙、自然素材をあしらったやわらかさがうまくマッチした、和風モダンな内装です。

 「3年くらい前に改装しました。こういうふうにしたいねと話し合って決めたんです」と教えてくださったのは、三代目店主の成田一美さん。初代はお祖父さんで、最初の店は信濃町。二代目であるお父さんの時代に、ここ代々木上原に移転。出前専門のお蕎麦屋さんだったのを、和食の料理全般を充実させた蕎麦割烹スタイルにしたのがお父さんです。三代目の一美さんもその思いを踏襲。店を継ぐまでに何軒かの外の店で修行し、和食の腕を磨いたとのこと。メニューを見ると、「焼き味噌」「豆腐の味噌漬け」といった、お蕎麦屋さんらしい一品から、お造り、焼き物、揚げ物、天ぷら、デザートと、和食のコースとしてしっかり楽しめるラインナップが並んでいます。

 お蕎麦も、コースの締めの一品としてとらえているので、いろいろなお料理のあとに食べておいしいお蕎麦を、ということを考えているそうです。そのため現在は、喉越しの良さを重視した蕎麦を打ち、つゆもさっぱりした味に整えています。

 注文したのは「天せいろ」。天ぷらは、「桜海老かき揚げ」「季節の野菜」「大海老」「穴子」から選べるので、迷った末に「季節の野菜」にしました。お蕎麦メニューには定番に加えて季節ものもいろいろあり、うどんもあります。訪れたのはとても寒い日だったので、「味噌煮込みうどん」に目をひかれました。でもさすがにここでご紹介するのに「うどん」はないかなと思い、それは次回に、と考えていたら、少し離れた席に座るスーツの紳士が「味噌煮込みうどん」を頼んでいました。ぐつぐつと音が聞こえてきそうな湯気たつ鍋がテーブルに運ばれ、はふはふと、顔の汗をふきながら夢中で食べる紳士の姿は、やっぱりちょっと羨ましかったです。

 人が食べているのを見て喉がごっくんと鳴ったところで、私の「天せいろ」もきました。二段のせいろが嬉しい。せいろの上に広げて盛られた美しいお蕎麦。天ぷらは、人参、椎茸、かぼちゃ、蓮根、なす。つゆは少し淡い色ですが薄くなく、軽やかでいてきりっとして、お蕎麦にも天ぷらにも合います。喉越しの良いお蕎麦は、つるつるっといただけます。多すぎず少なすぎずの量もちょうどよく、黙々と食べ終えて、満足のため息。絶妙のタイミングでテーブルに置かれる熱々の蕎麦湯を、ふーふー、ごくり。

 そこでふと、メニューで見た「デザート」が頭をよぎり、「抹茶アイスクリーム、蕎麦蜂蜜がけ」を追加注文しました。濃厚な抹茶アイスに蕎麦蜂蜜がかかったもの。蕎麦蜂蜜は、蕎麦の花から採れる蜂蜜で、ビタミンやミネラルの含有量が多いことでも注目されているそう。「黒糖のような濃厚な味で私はとても好きなんですけど、お子さんには少し食べにくいかもしれないので、ふつうの蜂蜜とブレンドして食べやすくしています」と成田さん。しかしその個性は失われることなく、黒糖のようなキャラメルのような深い味わいはくせになりそうなおいしさ。蕎麦湯との相性もすごく良く、この蜂蜜を舐めながら蕎麦湯を一口飲むのもおすすめです。

 味噌煮込みうどんの紳士をはじめ、静かに語らいながら過ごしていたご年配のおふたり、向かい合ってお蕎麦をすすっていた小学生とお母さん、カウンターで黙々と食べるおひとりさまの若者。いろいろな人が食べている姿を見るのがほんとうに好きです。みんな今日もおいしくお蕎麦を食べられて良かったと心で語りかけつつ、食後の余韻を楽しみました。

 いい雰囲気のお店だなと思いながら、お店として心がけていることはありますか、とお聞きすると、「お客さんにとって楽しめる場を作りたい、ということですね。お店の雰囲気や接客もそうですし、お料理も、こんなのが食べたいというお客さんのリクエストにはなるべく応えられるようにしたいと思っています」とのこと。まさに、おいしくて楽しくてくつろげる、嬉しいお店です。

そば季寄 武蔵屋
渋谷区上原1-22-3 050-5487-3526
定休日・日曜日