粋を楽しむ。

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「教えてくれた人の言った通り、今でも作ってる」
変化の激しい秋葉原で、人のつながりを大切にするあったかそば

[秋葉原]そば処 三笠
千代田区神田和泉町1-2-21三笠ビル
営業時間11:00~15:00 / 17:00~22:00 定休日:日

 世界でも指折りの電気街からアイドルの街、そして観光地へ。時代とともに変化してきた秋葉原で、50年近くのれんを掲げてきた「そば処 三笠」。そば粉屋さんも鰹節屋さんも昔からの長いお付き合い、ずっと家族でお店を切り盛りされてきた、店主の久保義雄さんにお話をお聞きしました。

・ビジネス街の中にある「三笠」。そばだけでなく昼の定食も人気。

 

5人兄弟ではじめたお店

・夜は「帰りにちょっと一杯」のサラリーマンでにぎわう。

── こちらのお店は開業して何年になりますか?
久保氏(以下敬称略):もう47、8年になるかな?以前は蔵前通りから少し入ったところにお店を出してたんですが、25年ほど前に昭和通りのこちらに移転してきました。

── 40数年前の秋葉原ってどんな感じだったんですか?
久保:まだそんなに騒がしくもないし、よかったですよ。今は大きなビルばかりですが、当時は青果市場がまだ秋葉原にあって、年中活気にあふれてました。

── 開業される前はどちらで修行されてたんでしょうか?
久保:浅草の「十和田」というお店で3~4年くらい修行させてもらいました。私はそこにいた職人さんにそばを教えていただいたんです。それまでは浅草で中華屋をやってたんですが、日本そばの方がきれいだからって言ってね。

── 意外な理由ですね。(笑)
久保:教えてくれる方が親切な方で、腕がよかったんですよね。それから、うちの兄弟5人で店をはじめたんです。

── ご兄弟で!出身はどちらですか?
久保:出身は奈良県の大和郡山というところです。

── じゃあ、ご兄弟みなさんで出てこられて?
久保:そう。最初の中華屋は兄弟3人でやってたんですが、その後全員呼んで、それぞれそば屋さんで修行をして、みんなでお店を開きました。

 

二八そばひと筋

・そばとごはんを玉子でとじた「おじやそば」はやさしい味わい。

── こちらのそばは、何割になりますか?
久保:二八です。八割がそば粉で、二割が小麦粉。

── 二八の割合にされている理由は何でしょう?
久保:やっぱりそれくらいでないと、そばの風味が出ないので。教えてくださった方が、やっぱり二割はつなぎを入れないと、とおっしゃってね。

── そもそも教えてくれた方が二八で作っていた、いうことですか?
久保:そうそう。

── じゃあ開店から50年近く、ずっと二八にこだわられてるんですね!
久保:こだわってはいませんけど。(笑)それで作らないともう作れないという。十割そばもできないことはないんだけど、まあ、教えてくれた人が言った通り今でも作ってる、それだけのことです。

── 出前もされてますか?
久保:いやいや、もうセイロを何段も重ねて行けないですからね。昔は20、30と重ねてましたけど。

── すごい、漫画のそば屋さんそのものですね!
久保:今はもう警察の方で片手運転はだめとか、いろいろあるんでね。当時はある程度、そば屋の出前は大目に見てもらえてたところがありましたね。

── 割合は二八ということですが、そば粉は決まった産地のものを使われてますか?
久保:仕入れはお店を出した時から同じ、OGURAという会社から。そば打ちを教えてくれた方が、ここから仕入れておられたんで。

── その方のやり方に、本当に忠実にやってらっしゃるんですね!じゃあ、基本的には国産のそば粉を使われてるんでしょうか?
久保:そうですね。一番粉というのは真っ白なんですよ。お米とちがって、そばは中へいくほど白い。実の中心が一番粉で、その外側が二番粉。うちはその一番粉と二番粉を混ぜたものを使ってます。

── なるほど、ちょっと白っぽいおそばなんですね。

 

人気のメニューは「おばけ」!?

・「鍋はすぐおなかが空くから」と、具だくさんがうれしい鍋焼きうどん。

── こちらに「おばけ」というメニューがあるとお聞きしたんですが。
久保:ああ、今はやってないんですよ。夏限定の冷たいそばなんです。

── 残念です。(笑)どういうおそばなんですか?
久保:結局、たぬきときつねを合わせたものなんですよ。

── どうして「おばけ」っていう名前に?
久保:昔の人は、たぬきときつねを合わせたのを「ムジナ」って呼んでたんですけどね、今の若い人は「ムジナ」っていうと「ムシ」だと勘違いしちゃうんですよ。

── ムシって、あの、昆虫の虫ですか?
久保:そうなんです。それで名前を変えて「おばけ」にしたんですよね。

── こちらは開店の時から出されてるんですか?
久保:いや、最初はなかったんですけどね、冷たいそばで何かできないかなと考えてみたら、ヒントが冷やし中華にあったんです。

── なるほど、もともとは中華屋さんでしたね!
久保:冷やし中華があるんだから、日本そばでやってみようかなと思ったんです。きゅうりと錦糸玉子を入れてね。

── まさに、そば版の冷やし中華ですね。
久保:冬は牡蠣鍋とか寄せ鍋とか、鍋物なんかもあります。

── 鍋だと、シメはさすがにうどんですか?
久保:お好みでそばもやりますよ。鍋焼きうどんってあるでしょ?うちは「鍋焼きそば」もやりますから。

── 鍋焼きは初めて聞きました!
久保:冬は「おじやそば」もよく出ますね。特に女性に人気があります。ごはんとそばと、あと海老天やネギ、かまぼこが乗っています。

── 結構、豪華ですね!それでこのお値段はうれしいです。

 

ふるさとの山にちなんだ「三笠」

・もやし炒めに里芋の煮物、どちらも良心的価格でこのボリューム感。

── 今、お店はご家族でやってらっしゃるんですか?
久保:そうです、妻と息子と、あと弟と。段落

── ちなみに「三笠」という店名の由来はどこから……?
久保:私は奈良県出身なんですが、若草山ってあるでしょう?

── あの、シカがいる若草山ですか?
久保:そうそう。あれは昔、三笠山と言ってね。

── 和歌に詠まれている、あの三笠山※ですか!
久保:そうそう、そこから「三笠」と付けたんですよ。

── それはいいお話ですね。ふるさとにちなんだ名前のお店を、兄弟ではじめて、今も家族で続けてるなんて素敵です。

※「天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」という阿倍仲麻呂の歌。百人一首にもおさめられている。

・今もところどころに関西のイントネーションが混じる、謙虚な人柄の久保さん。