粋を楽しむ。

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「味を守るんじゃなくて、自分の新しい味を出す」
きっぷのいい女将の心配りがうれしい、地元の愛されそば

[浅草]かどや
東京都台東区浅草5-42-7
営業時間11:00~18:00 定休日:水

 そばの花が描かれた粋なのれんをくぐると、「はい、いらっしゃいー」と明るい声が迎えてくれます。浅草「かどや」は、お祭りで活躍する町会の親分たちにも愛される、下町情緒あふれるお店。娘さん、お孫さんと一緒にお店を切り盛りする、女将の渡邊トミ子さんにお話をお聞きしました。

・お客さんは常連の方がなんと9割以上!地元に密着したお店。

創業100年以上!

・浅草らしい風情のある店内。窓の外には朝顔も。

── こちらのお店はもう何年くらいやってらっしゃるんですか?
渡邊氏(以下敬称略):私自身はもう54年やってます。

── すごいですね!
渡邊:お店自体は戦前からね。最初はおじさんがやって、その後おじいちゃんがやってたんだけど、途中で戦争行って、帰って来てまたやって。40年くらいかな。その後は旦那と私と2人でやって、旦那が14年前に亡くなって、今は私がやってるの。

── 足していくと100年超えるんですね!その間ずっと浅草で?
渡邊:そう。

── ご自身は54年とのことですが、かどやさんに嫁いで来られて、家業を手伝われることになったんですか?
渡邊:嫌だったんですけどね。当時はそば嫌いだったし。今は食べられますけど。

── (笑)。おいくつの時に嫁がれたんですか?
 渡邊:20歳です。

── 若いですね!当時はおじいちゃんがおそばを打ってたんですか?
渡邊:そう、おじいちゃんがそばもうどんもやってたけどね、かわいそうだからやってあげたの。(笑)見てれば覚えちゃうからね。

── え!?じゃあ教えてもらったわけじゃなくて?見よう見まねってことですか!?
渡邊:だから忘れないの。

二八そばに合うつゆを

・醤油がきいた辛めのそばつゆ。肉そばは旨みがたっぷり。

── かどやさんが二八にこだわる理由はなんですか?
渡邊:やっぱり二八の方がおそばだなって感じしません?

── のどごしとか、コシの強さとかですかね。
渡邊:そば粉は結構いいの使ってます。今日のは北海道かな?

── そば粉はどうやって選ぶんですか?
渡邊:そば粉屋さんって何十軒もあるけどね、私は営業を信じてるから。組合の支部会の時に、このそば粉を使ってくださいよと持ってきてくれる。そうすると性格上、わざわざそういう風に持って来てくれたんだから仕入れなくちゃな、と思うわけ。

── そばつゆは結構、お醤油がきいていますね。
渡邊:二八に合うおつゆを作ってるつもりです。あったかいそばのつゆも、冷たいそばの辛汁も、かえしは一緒だけど、だしはちがう。辛汁は鰹節だけでとって、あったかいそばのつゆはそれ以外も入ってる。

── そこは、どうして分けられてるんですか?
渡邊:やっぱり冷たいそばっていうのは、あったかいそばみたいに、肉や卵が入ってることが少ないから、そばの味がはっきりわかるじゃない?

人が変われば、そばも変わる

・サービスの突き出しは毎日変わる。この日は大粒のあさり。

── 浅草にはたくさんおそばやさんがありますが、他のお店のおそばを食べて、参考にされることはありますか?
渡邊:あんまりないねえ。自分ちのが一番いい。

── やっぱり(笑)。今のかどやさんの味は、おじいさんからの味ですか?
渡邊:いいえ、私だけの味。

── あ、じゃあおじいさんの代とはちがうんですね。おそば屋さんだと、自分の店の味を守るっていうところも多いですけど……
渡邊:守るんじゃなくて、自分の味を出す。新しい味を出す。

── なるほど。そういう考え方なんですね!たとえば、お孫さんがかどやさんのお店を継いだ時には、お孫さんにも自分の味でやってほしいと?
渡邊:自分でやるしかないんだよ。味は変わっても、ちゃんとのれんは守ってるからね。

── そうですね!

・辛味大根そば。ピリリと辛い大根おろしでつるつる食べてしまう。

渡邊:時代が変わったら、今は今流のそばにしないといけないの。

── 「今流」というと???
渡邊:昔は冷たいそばの辛汁も、あったかいそばのかけ汁も、同じだしでとってて、辛汁にはかえしを足したぐらいだったんだけど、私がやるようになってからは、辛汁は辛汁で作ってます。

── それはやっぱり、自分でお店を継がれて、工夫されたんですか?
渡邊:ちがう。今度、同じ浅草の甲州屋さんにも取材に行くでしょ?その甲州屋さんが教えてくれたの。

── え!そんな、他のお店が教えてくれるってことあるんですか!?ある意味、企業秘密ですよね?
渡邊:そうよ、本当はこうやって、だしのことしゃべってるのもよくないのよ(笑)。

── すみません(笑)。差し障りのない範囲でおねがいします。
渡邊:壁のメニューも甲州屋さんが描いてくれるの。魚釣ってきたよって持ってきてくれたり、うちも田舎から何か送られてくると持って行ったり。

── そば屋さんてそういう横のつながりが強いんですね
渡邊:すごく大事だよ!

浮かんでくるメニュー

・常連さんの要望に応えてメニューにないものも作る、とのこと。

── 先ほどいただいた辛味大根のそばもとてもおいしかったですが、こちらで一番おすすめのメニューはなんですか?
渡邊:辛味は結構でますよ。あとは小柱とか、桜海老のかき揚げとかも。私が自分で考えて出してるの。

── メニューの開発はいつもご自分で考えられるんですか?
 渡邊:考えたことなんてないよ!夜寝る前にね、ふーっと頭に浮かんでくるの。

── 自然に浮かんでくるんですか!?
 小柱と玉ねぎと、きのこ、春菊……

── すごく大きなかき揚げだなと思ったら、いろいろたくさん入ってるんですね!

そば屋は毎日が勝負

・昼間から酒飲みが集まるというだけあって、酒のあても充実!

── お店をやっていて今まで一番嬉しかったこと何ですか?
渡邊:それはやっぱり、お客さんがお母さんおいしかったよーって帰ってくれること。毎日が勝負だからね、蕎麦屋は。

── じゃあ、ちょっと蕎麦が納得いかないな、なんて時は……
 渡邊:「今日のそばはちょっと切れやすいからね、そのつもりで食べてー」って。

── 言っちゃうんですか(笑)。
 渡邊:意外にわかんなかったりするからね。お客さんに「そば粉変えたんだけどどう?倍の値段だよ?」って言ったら「食べる前に言ってくんなきゃ!」って(笑)。

──(笑)。そういう会話が楽しいっていうのもあるんでしょうね
 渡邊:そうね、みんな私のね、心配り、気配りを喜んでくれる。

── お母さんに会いたくなるから、かどやさんは常連さんが多いんですね!

・少し照れながら撮影に応じてくれた渡邊さんは、江戸っ子らしい人情派。