粋を楽しむ。

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東京二八そば探訪【其の一】
昼から気ままなひとり酒。 二八そばを香りの良い胡麻汁で。

吾妻橋やぶそば
K.June

 浅草駅を出て、隅田川にかかる「駒形橋」をスカイツリーを眺めながら渡ると、すぐ目の前に見えるそば店、吾妻橋やぶそばへ。
 白壁と木の清潔感を感じる店内に、2人席が5つ、4人席が2つのゆったりした配置。開店と同時に、常連客などで満席になる人気のお店。とはいえ、初めての来店でも臆することなくくつろげる、温かく落ちついた雰囲気です。

 少し蒸し暑い日だったので、まずは「ビールを小瓶で」と頼みました。おそばをしっかり食べたいので、軽めの「そば前」をいただきたくて、メニューを眺めます。カツ煮もおいしそうだけど、今日はちょっと重いかなと、かまぼこ、焼のり、わさび芋、という、そば前の定番のどれかにしようかと考えながら、ふと壁の貼り紙に「ぬか漬け」の文字。

 「ぬか漬けがあるんだ」とつぶやくと、「ビールにぬか漬け、ぴったりです」と、忙しく注文を聞き立ち働く女性ににっこり言われ、うれしい気持ちに。ビール(小瓶)、ぬか漬け、胡麻汁そば、という本日の注文が決定した。

 開店は1984年。今年で創業36年。10年前に、ここから近い別の場所から移転しました。

 昼のみの営業で、メニューには、冷たいおそばと温かいおそばがそれぞれ7、8種類、定番の「そば前」が10種類ほど、そして、ビール、日本酒、そば焼酎。
 あえて、ごはんものや季節の変わりそばなどは置かず、「これぞ昔ながらのおそば屋さん」と思える王道メニューが潔く並んでいます。

 「選択肢が多い店ではないですね」と、店主の梅岡二郎さん。けれど「手は抜かないです」ときっぱり。営業は昼のみだけれど、朝6時には店に来て、そばを打ち、昼の営業を終えたら、片付けや仕込みをして、結局は20時頃まで店にいるとのこと。「自分のペースで納得してやる人ですから」と女将さん。
 頑固、なのかもしれないけれど、その頑固さが築き上げた信頼は、店のすみずみまで感じられます。納得のいく鶏ささみが手に入らなくなったことで、人気だった「鳥わさ」は、今はやむなくメニューからはずしています。シンプルなメニューのひとつひとつの食材にもこだわりがあるのです。

 二八そばについては、「十割そばは確かにおいしいけど、それに劣らないのが二八そば。二八がおいしいバランスだということは間違いないと思います」

 胡麻汁そばの「中」は、胡麻汁と普通の汁が両方つきます。汁は、しょっぱさがおいしい東京らしい汁。梅岡さんも「そばはもちろんだけど、汁も大事」と言います。その汁をベースにした胡麻汁も、甘さよりもキリッとした味わいが強く、そばをからめたくなる味です。ふんわりとふたつの山に盛られた二八そばは、細めで長く、つややかないい色をしています。強い味の胡麻汁をからめてすすっても、そばの香りやつるりとした食感は頼もしくしっかりと感じられました。

 おひとりさまのお客さまが半数以上で、ほとんどの方がお酒も注文します。洒落たハットをかぶった紳士は、焼のりをていねいに一枚ずつ指でつまみ、ゆっくり口に運んではお酒を一口づつ飲んでいました。ビールと鴨汁そばの組み合わせが見るからに似合う、カジュアルな服装の若い方や、そば前を何にするかメニューを眺めて静かに相談している落ち着いた雰囲気の年配のご夫婦など、みんなそれぞれ自分のペースで楽しんでいて、そんな様子を眺めながらそばをすするのは、心ほぐれる時間でした。
 レジのうしろの壁には、有田に行ったときに絵付け師の方にお願いして描いてもらったという、いろいろな柄のそば猪口を並べた素敵な絵がかかっていました。

吾妻橋やぶそば
墨田区吾妻橋1-11-2 03-3625-1550
11 時半~15 時(そばがなくなったら閉店)
定休日・月火